「るみ子の酒」の森喜るみ子さんインタビュー
-
ご自身についてお聞かせください。
森喜るみ子と申します。
三重のこの酒蔵で、30年前から蔵元を務めています。
酒蔵では様々な仕事を行なっています。
夫と共に日本酒の製造を行い、麹の責任者も兼任しています。
それから事務や会計…あと、みんなのご飯だって作っていますよ!
私たちの酒蔵は自社田を蔵の正面に所有していて、そこで無農薬の山田錦を丹精込めて育てています。
それに加えてパートで薬剤師としても働いています。こうやって自分に厳しく働くのが性分なんです(笑)!
-
漫画「夏子の酒」とはどのようなご関係ですか。
私はこの漫画の考案者ではありませんし、作者の尾瀬あきらさんに着想を与えたわけでもありません。
ですが、偶然にもヒロインの境遇が信じられないくらい私そっくりだったんです!
私も、父の健康に問題があって、酒蔵が存続の危機に陥っていたため帰郷しました。
そこで父の後を継いで杜氏の一員になろうと決めたんです。
でも状況は一向に良くならず…そんな時に『夏子の酒』の物語に出会って、希望と勇気をもらいました。]
この漫画が私の背中を押してくれたおかげで、良い酒を造ろう、って活力が湧いてきたんです。
生まれ変わった気分でした。
そこで尾瀬さんにご連絡をしたところ、お返事をいただけて、それ以降は彼からアドバイスももらうようになりました。
私の銘柄に「るみ子の酒」と名付けていいですかとお伺いしたところ、快く承諾してくださって。
そのような流れで、1992年に「るみ子の酒」が完成しました。
お酒のラベルは尾瀬あきらさんが特別に手がけてくださったんです!
-
製造されている日本酒について教えてください。
純米に特化した銘柄を複数揃えています。
埼玉にある神亀酒造の小川原良征氏もまた、私にとってのキーパーソンでした。
彼こそが、初の純米酒専門の酒蔵を作った人で、私たちも純米酒の普及に努めました。
銘柄「るみ子の酒」では、3種類の清酒酵母と、自社田の無農薬山田錦を含む4種類の酒米を使用しています。
「英~はなぶさ~」では、この無農薬山田錦を100%使用しています。
これは私の夫の名前の一字を取って命名したお酒で、彼への敬意のしるしです!ってよく言ってます。
だから当然、クオリティも極上ですよ(笑)。
-
酒蔵を35年前に引き継いだ際、困難なことはありましたか。
簡単なことではありませんでしたね。
日本酒界で女性が働くのは珍しかったですし、特に製造となるとなおさら…認めてもらえませんでしたし、他の杜氏たちは女性が酒蔵に足を踏み入れることを良く思っていませんでした。
例えば日本酒の集まりがあった時なんかは、なんで来たの?なんて言われるほどでした。
悪意から出た言葉ではないのは分かっていましたよ、ただ、当時はそう言われることが普通だったんです。
それから6、7年経った頃、『夏子の酒』が出版されて(今から28年ほど前です)、
その頃からだんだん日本酒界で働く女性が取り上げられ始めたように感じます。
その時に、福島にも私と同じような女性がいることを知りました。
当時インターネットがなかったので、手紙で彼女にコンタクトを取って、そこで初めて自分と同じような立場の人と出会うことができました。
そして22年前、蔵女性サミットが誕生したんです。
日本醸造協会もまた、女性に特化したセミナーを始めました。
その第一回目の登壇者は私だったんです。
自身の経験を共有したいと強く思っていたので、このイベントは私にとっても大変良い機会となりました。
-
あなたにとって日本酒とはなんですか。
私にとって、日本酒は特別な飲み物ではありません。
それは私たちの主食の米から造った飲み物であって、日々の生活に寄り添うものです。
くつろぎたい時にはもってこいですし、食事と一緒に飲むのもまた良しです。
日本酒って、魔法のような飲み物ですよ。飲めない人がいたら人生の半分を損しています!
これまで、生酛や山廃など、様々な製造方法を行なってきました。
酒米を作るようになったのも偶然の巡り合わせでした。
日々新しい経験ばかりです。
酒造りには同じことの繰り返しなんて存在しません。
人間は自然をコントロールしていると思いがちですが、実際は何もコントロールなんてできないんです。
だからこそ体験が醍醐味となるんですよね。
私もまだまだ進み続けます。このまま一生現役でいます(笑)!
-
今後日本酒の製造に携わりたいと考えている若い女性にアドバイスをお願いします。
30年前と比べれば、現在では女性にとって日本酒の業界に身を投じることは難しくなくなりましたが、製造者や消費者は年々減ってきているのもまた現状です。
この状況を打破するためにも、今こそ女性が必要なんです!お米に触れてください。
日本酒を飲んでみてください。
何事にも関心を持って、遠慮せずにチャレンジしてください。
そしてあなたの才能を開花させてください!